-Maze-









ここは、夕暮れ時の高架下。

上を走る電車の音が耳に煩い。

普段なら河川を犬の散歩だので通る人影もつい先ほどまで
ここに居た少年達の姿を遠巻きに見ては道を変えて行って
しまったようだ。


意味不明の落書きをされた壁に背をつけて亜久津は大きく
息をついた。

「・・・・っ・・・てぇ」

唇にチリッという痛みを覚え指の腹でなぞると指先に赤く血
がこびり付いた。

口の中も切れたらしく鉄臭い匂いが喉の奥を刺激する。
それがひどく不愉快で口の中に溜まった唾を地面へと吐き
出すと余計に血の味が広がった気がして思わず眉根を寄せ
た。

舌に残る錆臭さを取り除こうとポケットの煙草を一本取り出し
口に銜えた。
ライターの点火の小さな音が電車の通過後の静けさに響く。

思えば些細な言いがかりからだった、と思う。
良くも悪くも名前が通り過ぎているのだ。

どこの学校かも解らないような奴らに絡まれるのは日常茶飯事
の事ではある。

顔も覚えていなければもちろん名前すら知らない。

ただ売られた喧嘩を買っているまでにすぎない。

それだけ。


「・・・・クソッ、油断してたぜ・・・」


相手が強かったわけでは決してない。
確かに人数的には明らかな差ではあったがそれでも力量が
全く違う。
場数的にも亜久津の方がよっぽど有利だったろう。

三人目を伸した辺りで一人がどこから持ち出したのか鉄パイプ
を振りかざして来た。もちろんそれは軽々とよけられるものだっ
たので横に避け、思いっきり蹴りを入れた。
そいつはあっけなく地面に突っ伏したけれど、気づいた時には
自分の左腕に違和感を感じたのだ。
左腕に深々とナイフが突き立てられてるのを見てそのまま視線
をナイフを出したであろう人物を見据えた。

「・・・いい度胸してるじゃねぇか」

「・・・・っ」

一睨みしただけでそいつはガタガタと震え、まともに立っても
いられないといった風に今にも泣きそうな顔で亜久津を見た。

そいつが地面と仲良くなるまで1分。


辺りには静寂が訪れた。



何も考えずに引き抜いたナイフの傷からは血があふれ出し今は
感覚がない。




ゆらゆらと立ち上る紫煙をじっと見つめてため息を吐く。

制服が汚れたなぁ、とかこの恰好で街中を歩いたら通行人が
煩いだろうな、とかそんなくだらない事ばかり考えて。
それからそんな事を考えてる自分に苦笑する。


かといっていつまでもここに居る訳にもいかず、短くなった煙草
を足下に投げ落とすとふらりと歩き出す。

ここから亜久津の家までは少し距離がある。
自分的には構わないのだが、血に濡れた制服を見て騒ぎにな
るのは困る。
さてどうしたものか・・・・と思案し始めた所に聞き慣れた声が耳
に入ってきた。

「あっくんじゃん?どうしたの〜?」

のほほんとした声に嫌が応にも振り返らざるを得ない。

「・・・あ、やっぱりあっくんだv・・・・何?また喧嘩?」

明らかに喧嘩しました、と言わんばかりの風貌に千石は顔を顰
めた。

振り返ってしまったものの、千石に関わる気分でもないので無言
でその場を立ち去ろうと背を向けた。
「あっくん、その恰好で家まで歩いてく気!?」
千石の声が後を追う。

「ほっとけよ」
「ほっておける訳ないじゃん、怪我してるんでしょ」
めざとく左腕の傷を見つけたらしくそんな事を言う。

「・・・うるせぇ、大した事ね・・・っ!」
追いついた千石に左腕を捕まれて言葉を失う。

「ほ〜ら、痛いんじゃん」

左腕を捕らえたままにっこりと千石は笑っている。

「うち来れば?あっくん家より全然近いしさ」

手当くらいするよ?と笑顔のままで言う千石の腕は頷くまで離さ
れる事は無いのだろう。

「・・・・っかったよ!だから離せっ」

「最初から素直にすればいいのに」
にこにこととても嬉しそうに千石は笑った。













「はい、お終い」
しっかりと手当のされた腕をじっと見る。

白い包帯が何故か現実味のない物に見えて不思議な気がして
くる。
「なに?どうかした?」
「・・・何でもねぇ」

「ふ〜ん?」
良いながら千石の指が亜久津の切れた唇に触れる。
「っ!」
「痛い?」
当たり前だ、と言う前に千石の舌が傷を嘗めあげた。
乾いていた傷から血が滲む。
「あはは、血の味がする〜」

抗議をしようとした亜久津の顎を捕らえて深く口づけてくる。
切れた口内に舌が這うたびに焦れた痛みが走る。
「---------って・・」
「痛いよねぇ?もぉ、あっくんの口ん中鉄錆臭いよ」
「だったらすんじゃねぇよ」

「やだ」

千石の目が笑っていないのに気づいて首を傾げる。
「・・・・何苛ついてんだ?」
「苛ついてなんか・・・」

いつもなら亜久津が喧嘩していても気にも留めないはずだ。
なのに何故今日に限ってこんなにも苛ついているのだろう?


「怒っては・・・いるかもね」

自分自身で考える陽に千石が呟いた。
「くだらない喧嘩如きで怪我をしてる亜久津にも、怪我を負わせ
た奴にも」
一旦言葉を句切って「その場に居なかった自分にも」と続けた。
居たから何になるよ?と思ってはみても口には出さずただ千石
を見た。

「亜久津に傷が付くのが気に入らない」
「は?」
「お願いだから俺の好きな亜久津に傷なんてつけないでよ」

返答に困って亜久津はただ黙るしかなかった。

まるで一世一代の愛の告白でも聞いてるかのような気分・・・
まさしくそれなのだろうけれど。



「だから亜久津、喧嘩はしてもいいから怪我なんかしてこないで」

困ったように笑いながらそっと口づけてくる。


「亜久津がもし誰かの手にかかって死んだりしたら俺相手より
亜久津を許さないからね?」
「・・・何だ、それは?」
「人の手にかかって死ぬくらいなら俺に殺されてよ」
「はっ、てめぇになんざ殺されるかよ」



「・・・・もしも、の話だよ」




愛しそうに繰り返される口づけにさしもの亜久津も苦笑を漏らす。



「あぁ、わかった・・・・」






繰り返すキスはいつまでも血の味が、した。

















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あ〜・・・・・すみません;すみません;;
こんな感じで良かったんでしょうか!?(いや、駄目です!)
リクに沿わないにも程があるってねぇ・・・。

『甘甘で、千石が超鬼畜で、場所は千石の家』
おかしいなぁ、いくつくらいだろう?クリアできてるの;;
お待たせしたのに☆
何はともあれ15909HITありがとうございましたv
こ・・・これに懲りずにまた遊びにいらして頂けると嬉しいです;;







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